地震による建物の被害や激しい揺れに見舞われた八代市や宇城市、氷川町では、多くの方が避難所や車中泊、あるいは損壊した自宅での不便な生活を余儀なくされています。
生活の再建や避難所の環境整備に追われる中で、特に注意しなければならないのが「高齢者の持病(基礎疾患)の急速な悪化」です。
過去の大地震の公的データからは、家屋の倒壊による直接の被害だけでなく、避難生活中の体調悪化によって命を落とす「災害関連死」のリスクが極めて高いことが明らかになっています。
目次2. なぜ避難所や車中泊で高齢者の持病が急悪化するのか? 3. 今すぐ避難現場でできる!高齢者の命と持病を守る5つの緊急アクション まとめ:持病の管理は「命を守る防災」です 思考を少し休めたい方へ
1. 統計データが示す現実:災害関連死は「高齢者」と「持病のある方」に集中する
過去の災害における公的データや事例分析から、災害関連死の発生には明確な特徴があることが分かっています。
① 関連死認定者の約8割が「70歳以上の高齢者」
熊本地震の集計(2018年時点)
熊本地震における災害関連死218人(熊本県公表)のうち、70歳代以上が169人と全体の約78%を占めています。
東日本大震災のデータ
対象者1,263人中1,094人(約87%)が70歳以上でした。
内閣府の事例分析
全国の主要な災害関連死事例127件を分析した調査でも、約82%(104人)が70歳以上という結果が出ています。
【結論】
災害の種類や規模を問わず、高齢者に犠牲が集中する傾向は一貫しています。
② 認定事例の多くに既往症(持病)が確認されている
令和6年能登半島地震の事例集(内閣府)
災害関連死と認定された286人のうち、実に270人(約94%)に、高血圧、心疾患、糖尿病、呼吸器疾患、要介護認定などの「既往症(持病)」があったことが確認されています。
主な死因は持病・血管系の悪化
熊本地震の災害関連死の死因は、「呼吸器系疾患(肺炎・気管支炎など:約28.9%)」と「循環器系疾患(心不全・心筋梗塞・脳卒中など:約27.5%)」で全体の約6割を占めています。避難生活のストレスや不便さが持病を劇的に悪化させたことがうかがえます。
2. なぜ避難所や車中泊で高齢者の持病が急悪化するのか?
避難生活という特殊な環境下では、自律神経や体調を崩す複数の要因が重なります。
① 「災害高血圧(Disaster Hypertension)」の発生
地震の恐怖や環境の変化により、交感神経が常時過剰に緊張した「警戒モード」に入ります。これにより血圧が跳ね上がり、普段飲んでいる降圧薬が効きにくくなる「災害高血圧」が発生し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが跳ね上がります。
※これは自治医科大学の苅尾七臣氏らが提唱し、日本高血圧学会も注意を呼びかけている、災害医療の分野で広く知られた病態です。
② 水分補給の控えによる「血液のドロドロ化」
避難所や車中泊では「仮設トイレに行く回数を減らしたい」「暗い夜間に動きたくない」といった理由から、意識的・無意識的に水やお茶を飲むのを控える方が多くなります。
水分が不足すると脱水症状を起こし、血液が固まりやすくなるため、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)や心不全、脳梗塞を誘発します。
③ 服薬の中断とお薬手帳の紛失
避難の混乱でお薬手帳や普段飲んでいる持病の薬を持ち出せなかったり、「病院が混んでいるから」と通院を我慢して服薬を中断してしまうことが、基礎疾患の致命的な悪化につながります。
3. 今すぐ避難現場でできる!高齢者の命と持病を守る5つの緊急アクション
避難所や車中泊で過ごすご家族・地域の方・避難所運営に関わる方は、以下のポイントを徹底してください。
①服薬を絶対に中断しない(お薬手帳がなくても入手可能)
薬を紛失した場合でも、避難所の救護所や巡回医師、調剤薬局で相談すれば、普段飲んでいる持病の薬を処方・供給してもらうことが可能です。自己判断で服薬を止めないでください。
②意識的な水分補給と足の運動
喉が乾いていなくても定期的に水やお茶を飲んでください。車中泊や狭いスペースにいる方は、1〜2時間ごとに足首を上下に動かす・爪先立ちをするなどの体操を行い、血流を維持しましょう。
③血圧と体調のセルフチェック
避難所に設置されている血圧計などを利用し、毎日の血圧を測定してください。「頭が重い」「胸が苦しい」「息切れがする」といった症状は持病悪化のサインです。
④身体を保温し、睡眠環境を整える
床からの冷気や硬さは体調悪化を招きます。ダンボールベッドやマットを活用して床から距離を取り、暖かくして横になれる環境を確保してください。
⑤周囲からの「積極的な声かけ(アウトリーチ)」
高齢者は「みんな大変だから」と不調を我慢しがちです。ご家族や周りのスタッフから「昨晩は眠れましたか?」「足はむくんでいませんか?」と具体的に声をかけ、不調を早期に発見しましょう。
まとめ:持病の管理は「命を守る防災」です
八代市や氷川町のように直接的な被災を受けた地域では、目に見える建物やインフラの復旧に意識が向きがちです。しかし、「ご自身やご家族の持病を悪化させないこと」もまた、等しく重要な防災活動です。
「少し体調が悪いけれど我慢しよう」と思わず、違和感があればすぐに避難所の救護所、巡回中の医療スタッフ、または近隣の医療機関へご相談ください。
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参照元・公式資料一覧
本記事の作成にあたり、以下の公的機関および学会の公式資料を参照しています。