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心のしくみ

悩みは選べる ──「リアル」か?「頭の中」か?

2025.11.28

私たちは、日々たくさんの悩みを抱えながら生きています。
仕事、家族、人間関係、お金、健康……。
大人になればなるほど、ひとつの悩みだけに向き合うことの方が少ないのではないでしょうか。

しかし、悩みが増えるほど「全部に同時に対応しなければ」と感じてしまい、
気持ちは焦り、思考はまとまらず、「どうすればいいかわからない」という状態に陥りがちです。

精神保健福祉士として多くの相談を受けてきた経験からお伝えしたいのは、
悩みは、“同時にすべて”解決しようとしなくていい ということです。
そしてもう一歩踏み込むと、
悩みは『選ぶことができる』 のです。

そのための鍵となるのが、
悩みを「現実」と「頭の中」、つまり、「リアルな出来事」と「心の中だけの出来事」に分ける視点 です。

「問題を整理する」とはどういうことか

悩みが大きく見える理由の多くは、“ひとつの問題に見えて、実は複数の問題が絡み合っている”からです。

認知行動療法(CBT)では、この状態を整理するために、
出来事 → 考え → 感情 → 身体反応 → 行動
という「5つの側面」に分けて考える方法があります。

この考え方の中心には、
“出来事そのものではなく、それをどう考えるかが感情を生み出す”
という前提があります。

これは、悩みを整理するうえでとても大切なポイントです。
なぜなら、悩みを大きく見せている“考え”と、実際に起こっている“現実の問題”は、しばしば混ざり合ってしまうからです。

悩みは「リアル(現実)」と「頭の中」にわけられる

精神保健福祉士の支援の現場では、「問題の二分化(Problem Separation)」という考え方がよく使われます。

現実の問題(リアル)
  • 実際の生活に影響していること
  • 自分が行動することで変化を起こせる領域
  • 例:生活費の不足、体調不良、家庭内の役割、提出期限 など
頭の中の問題(こころの中の問題)

・出来事をどう受け止めているか
・気持ちや価値観、過去の経験から生まれる心の反応
・例:「自分には価値がない」「きっと失敗する」「もう取り返しがつかない」など

どちらも重要な領域ですが、
対処の方法はまったく異なります。

●現実の問題は、具体的な行動や制度の活用、環境調整などによって改善できます。
●頭の中の問題は、自分の受け取り方や捉え方を整理したり、支援者と感情を共有することで軽くなります。

両者を「ごちゃ混ぜ」のまま抱えると、
悩みは巨大化し、何から手をつけるべきかわからなくなります。
だからこそ、最初の段階で “悩みを仕分けする” ことがとても大切なのです。

具体例で考える:会社を辞めた男性の場合

例えば、会社を辞めた男性が「辞めたことを後悔して眠れない」という悩みを抱えているとします。

この男性の頭の中には、次のような思いが同時に存在しているかもしれません。

  • 収入がなくなる(現実)
  • 自分は社会人として失格だ(思考)
  • 世間に後ろめたい(思考)
  • 生活がどうなるか不安(現実)
  • 眠れない、体調が悪い(現実 + 身体反応)

ここで、精神保健福祉士はこう整理します。

現実の問題
  • 生活費
  • 今後の働き方
  • 睡眠障害
  • 公的支援や制度の利用の有無
頭の中(こころの中)の問題
  • 「自分はダメになった」という自己評価
  • 「もう立ち直れない」という悲観的未来予測
  • 「他人にどう思われるか」という対人不安

こうして分けて見ていくと、
“すぐに対応すべき悩み” が見え始めます。

この場合、優先すべきは生活の安定(収入・制度)や睡眠を整えること。
一方で、「自分は失格だ」という思考は、支援者と話し合いながら、時間をかけてほぐしていけばよい領域です。

悩みは「全部」抱えなくていい

人は、悩みを全部同時に抱えようとすると、心がパンクしてしまいます。

だから、精神保健福祉士は支援の中で必ずこう尋ねます。

「今、もっともあなたの生活に影響しているのはどれですか?」
「今、まず取り組みたいのはどの悩みですか?」

この問いには、次の意味があります。

  • 悩みは同列ではない
  • 取り組む順番によって、人生の流れが変わる
  • “今この瞬間”に必要な支援は必ずしも一つとは限らない
  • でも、優先順位は「選べる」

つまり、
悩みを整理すれば、自分の力を注ぐ場所を選ぶことができます。

選ぶという行為そのものが、すでに回復の第一歩なのです。

最後に──悩みは、選ぶことができる

悩みがたくさんあるとき、人は「全部どうにかしなければ」と思い込みがちです。
しかし、本当に必要なのは次の二つだけかもしれません。

1. 悩みを「現実」と「頭の中」に分けること
2. 今取り組む悩みを“選ぶ”こと

この二つができると、
心はゆっくりと落ち着き、次の行動に向かう力が戻ってきます。

認知行動療法は、悩みの整理や行動の見直しにとても役立つ方法です。
しかし、深刻なストレス、抑うつ、不安、過去のトラウマ、家族問題が絡む場合には、専門家と一緒に取り組むことが重要です。

あなたは、一人で抱えなくてかまいません。
悩みは整理できます。
そして、選べます。

あなたの歩みを支えるために、精神保健福祉士はここにいます。

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