子どもたちには「守られる権利」があります。そして私たち大人には、その権利を守る責任があります。
暴力の連鎖を断ち切ることは、今を生きる私たちに託された大切な課題です。
児童虐待は、子どもの心身に深い傷を残し、将来にわたって影響を及ぼす深刻な問題です。
私たち精神保健福祉士は、親子の背景にある生活の困難や孤立を理解し、行政・医療・福祉の支援につなぐ専門職です。このページでは、日常の中で気づける「虐待のサイン」と、いざという時の適切な対応についてお伝えします。
児童虐待とは何か? 4つの種類と深刻な影響
虐待は命に関わる問題であると同時に、心にも影響を残します。ただし、適切な支援と安全な関係の中で回復は可能です。
児童虐待防止法では、虐待を大きく4種類に分類しています。
1. 身体的虐待
「しつけ」を理由にしても、子どもに対する身体的暴力は法律で認められていません。子どもの心身を傷つける行為は、正当化されることはありません。
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具体例: 首を絞める、殴る、蹴る、激しく揺さぶる、熱湯をかける、タバコの火を押しつける、戸外に閉め出す、異物を飲ませるなど。
2. 性的虐待
子どもにわいせつな行為をすること、またはわいせつな行為をさせること。近親者による加害が多いため、外部からは極めて発見しづらく、子どもの心理的ダメージも深刻です。
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具体例: 性的行為を強要・教唆する、性器や性交を見せる、不必要なプライベートゾーンへの接触。また近年では、スマホなどでわいせつな画像を撮らせる・送信させる行為も含まれます。
3. ネグレクト(育児放棄・怠慢)
子どもの心身の正常な発達を妨げるような監護を著しく怠ること。生命に関わる事態(放置)から、発達を妨げるような状況(心理的な放置)まで含まれます。
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具体例: 重大な病気になっても受診させない、乳幼児を家に残したまま長時間外出する、適切な食事を与えない、衣服や室内を長期間不衛生にする、児童が登校する意思があっても登校させないなど。
4. 心理的虐待
子どもに著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。モラハラ、言葉による脅かし、家庭内暴力(DV)の目撃などが含まれます。
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具体例: 言葉による脅かし、無視したり拒絶的な態度を示す、他の兄弟姉妹と比べ著しく差別的な取扱いをする、子どもの目の前で配偶者に暴力や暴言を振るう(面前DV)など。
【理解しておきたいこと】性的虐待が表面化しにくい背景
性的虐待は他の虐待に比べ、以下のような理由で表面化しづらく、問題が長期化しやすい特性があります。
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口止め: 加害者は子どもを脅し、秘密にするよう強く口止めしているケースが多い。
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加害者の特定: ほとんどのケースで、信頼している親族(実親、継親、祖父母など)や近しい大人(教員、指導員など)が加害者であるため、子どもが助けを求めにくい。
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外傷の不在: 身体的な外傷がない、または目立たない場合が多く、サインが子どもの行動や心理的な変化として現れるため見逃されやすい。
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羞恥心と罪悪感: 子ども自身が「悪いことをした」という罪悪感や、強い羞恥心を抱え込み、誰にも話せない状態にある。
立場別!日常生活で気づく「虐待のサイン」
虐待のサインは、子どもの様子だけでなく、保護者の言動や親子の関係性からも読み取ることができます。
(※出典:「保育現場の子ども虐待対応マニュアル」倉石哲也 著)
子どもの様子から
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不自然な「けが」や「あざ」がある/服装や身体が不衛生
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過食、または虫歯の放置
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警戒心が強く、部屋やトイレなど特定の場所を嫌がる
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パニックや怒りが表出する/うつろな表情、昼寝で過度に緊張する
子ども同士の関係から
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人形を使ってこらしめる遊びを執拗に繰り返す
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自分が人形に対して加害者役になることが多い
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性的虐待の場合、お化けや怪獣におそわれた場面を再現する、他人のプライベートゾーンに興味を持つ
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他児との接触を嫌がり大人にまとわりつく
子どもと保護者との関係から
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保護者から抱かれることを拒む(※発達特性の感覚過敏から接触を避ける場合もあります)
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保護者のお迎えに反応しない/離れることを極端に嫌がる
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試し行動(相手の嫌がることをして、どこまで許されるか試す)
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赤ちゃん返り、謝ることに過度な時間がかかる
保護者の様子から
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「子育てがつらい」など強い疲労や孤立が感じられる
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しつけの一環として体罰を肯定する/怒るときコントロールがきかない
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予防接種や医療ケアをうけさせない
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他の保護者とのトラブルが多い/連絡が取りづらい
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経済的困窮が疑われる/家族以外の出入りがある
性的虐待を防ぐための啓発と予防
性的虐待は密室で行われるため、子ども自身が「ノー」と言える知識と、それを支える環境が必須です。
1. プライベートゾーンの教育
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何を教えるか: 水着で隠れる部分は「プライベートゾーン」であり、他の人に見せたり触らせたりしてはいけない部分であること。
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誰が触っていいか: 清潔を保つために親が触れることや、病気の時に医師が親の許可のもとで触れることはあるが、それ以外はダメだと明確に伝える。
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「嫌だ」と言っていい権利: 「誰に触られても、嫌な気持ちになったらいつでも『嫌だ』と言って逃げて良い」という権利があることを強調する。
2. 子どもが安心して話せる環境作り(PSWの視点)
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秘密の区別: 「命や身体の危険に関わる秘密」は、絶対に大人に話さなくてはいけないことを教える。
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非難しない: 子どもが勇気を出して打ち明けてくれたら、絶対に非難したり、驚いたりしないこと。まずは子どもの安全を確保し、静かに話を聴き、真実として受け止める姿勢を見せる。
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専門家への相談: 疑いがある場合、周囲の大人が問い詰めて事実確認をするのではなく、すぐに専門機関(児童相談所)に連絡する。
虐待の疑いがある時の対応 〜ためらわず「つなぐ」〜
虐待のサインに気づいても、「確証がない」「家庭の問題に口出ししたくない」と見守ることが、結果として支援の機会を逃してしまうことがあります。
通報する際に、あなたが証拠を集めたり立証したりする必要はありません。
通報は、子どもの安全を守り、保護者にも支援の機会を届ける第一歩です。
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ためらわない: 「もしかしたら」と思ったら、すぐに児相や警察に連絡してください。
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秘密は守られる: 通報者の情報は法律により秘匿されます。相手に知られる心配はありません。
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証拠集めは不要: 気づいた「違和感」を伝えるだけで十分です。
【具体的な通報・相談先】
| 窓口 | 電話番号 | 役割 |
| 児童相談所虐待対応ダイヤル | 189(いちはやく) | 24時間365日対応。地域の児童相談所につながります。最も優先すべき通報窓口です。 |
| 警察 | 110 または最寄りの警察署 | 命に危険が及ぶような緊急性の高い身体的虐待・DVが発生し、危険が差し迫っている際に。 |
| 子どもの人権110番 | 0120-007-110 | 法務省の窓口。いじめや虐待、その他の人権問題に関する相談(全国共通・無料)。 |
| チャイルドライン | 0120-99-7777 | 18歳までの子ども専用の窓口。電話で匿名で相談できます。 |
【精神保健福祉士からのお願い】支援の視点
虐待の背景には、保護者が暴力に頼らざるを得ないほどの「孤立」や「困難」が複雑に絡み合っていることがあります。
通報は罰ではありません。
皆さんが気づきのサインを専門機関に「つなぐ」ことで、専門家が子どもの安全確保を最優先としつつ、保護者への適切な支援(カウンセリング、家事支援、経済的支援、精神科医療への連携など)を同時に行います。
子どもを守ることは、特別な誰かの役割ではありません。迷ったときは、一人で抱え込まず専門機関につないで、安心して役割をバトンタッチしてください。
困ったことがあれば、まずは「189」へ。それが、子どもを守る確かな一歩になります。
参考文献
- 保育現場の子ども虐待対応マニュアル ―予防から発見・通告・支援のシステムづくり(倉石 哲也、2018年、中央法規出版)
- 厚生労働省「児童虐待防止対策について」
- こども家庭庁「児童虐待防止対策」
- 警察庁「児童虐待等に対する警察の取組」