不登校は、人生の“行き止まり”ではありません。
学校という場所が、今のその子に合いにくい状況にあるのかもしれません。
呼吸を整え、自分らしさを取り戻せる場所は、教室の外にもあります。
教育機会確保法は、子どもや家族が孤立しないようにするために整えられた法律です。
1. 教育機会確保法の成立について
背景
近年、不登校の子どもは全国で30万人を超え、過去最多を更新し続けています。
その背景には、
心理的な負担やストレス
いじめや人間関係の難しさ
発達特性への理解不足
学校文化との相性の問題
など、子どもの心や環境に関わるさまざまな要因が重なっています。
従来の「学校に戻すことを最優先とする支援」が、子どもの状態と合わない場合もあり、
学校以外の学びも含めた、柔軟な選択肢が求められるようになりました。
法律の目的
2016年に成立した「教育機会確保法」は、
すべての子どもに、安心して学ぶ機会を確保すること
を目的とした法律です。
特に重要なのは次の3点です。
- 「学校に行かない=問題がある」という見方を見直し、不登校を問題行動とみなさないことを法律が示しました。
- 学校復帰だけをゴールにしない
- 学校外の多様な学びを尊重する
これは、子どもの心の安全を最優先に考える精神保健福祉の理念とも深く一致しています。
2. 教育機会確保法に基づいてできた制度
法律により、次の制度が整備されました。
① 不登校支援の法的な位置づけ
- 不登校を、さまざまな心理的・社会的背景をもつ状態として理解する
- 子どもの意思を尊重し、無理な登校の働きかけを控える
- 学校外の学びも含めて支援することを国・自治体の責務とした
② 多様な学びの場の尊重
- フリースクール等の民間の学びを「多様な学習活動」として尊重
- 行政は連携・支援を行う立場に
③ 夜間中学の全国整備
- 義務教育を受けられなかった人のための夜間中学を制度化
- 不登校経験者や外国籍の子どもも学び直しが可能に
④ 基本指針(ガイドライン)の策定
自治体が不登校支援を進めるための全国共通の基準が整備されました。
3. 学びの場の事例と設置権限者
教育機会確保法のもとで、学びの場は次の3種類に整理できます。
① 適応指導教室(教育支援センター)
設置者:市町村教育委員会(または都道府県)
- 行政が設置する公的な学びの場
- 学校に行けない子どもが安心して過ごし、学べる場所
- 心理支援・相談支援も提供される
② フリースクール・民間の学び場
設置者:民間(NPO・一般社団法人・個人など)
- 子どものペースに合わせた柔軟な学び
- 小規模で安心できる環境
- 子どもの自己肯定感を大切にする取り組みが多く見られます
■ 行政が設置しない理由
文科省の方針では、
多様な学びは、地域や民間の創意工夫から生まれるものであり、行政が一律に設計することで、多様な実践の柔軟さが損なわれる可能性がある
とされています。
行政は「設置」ではなく、
連携・支援・情報提供を担う立場です。
③ 夜間中学
設置者:市町村(公立学校の設置者)
- 義務教育を受けられなかった人の学び直し
- 不登校経験者や外国籍の子どもも対象
- 心理的な安全を重視した学びの場
4. 学びの場に関する現状の課題
精神保健福祉士として見えてくる課題は次の通りです。
① 「行きたい場所」がすぐに見つからない現状
不登校児童生徒数は過去最多
フリースクールは都市部に集中
適応指導教室は、地域によって定員不足が生じている場合もあります
② 情報が届かない
保護者が「どんな学びの場があるのか」を知らない
学校外の学びが制度的に理解されていない
③ 経済的な格差
フリースクールは民間運営のため費用負担が大きい
家庭の経済状況によって選択肢が制限される
④ 心理的安全性の確保
子どもが安心して過ごせる環境づくりが不十分
心理支援・福祉支援と学びの場が十分に連携していない
おわりに:子どもの学びは、社会を支える基盤です
教育機会確保法は、
子どもの心の安全と学ぶ権利を守るための法律です。
「どこで過ごしていても、学びは続いています」。
そんな安心感が、少しずつ広がっていく社会を目指しています。
参考文献一覧(リンク付き)
1. 文部科学省(教育機会確保法・不登校支援)
- 教育機会確保法(正式名称:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)
- 教育機会確保法リーフレット(文科省)
- 不登校児童生徒への支援の在り方(文科省)
- 不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)
- 多様な学びの実現に向けた検討会議(文科省)
2. 内閣府(多様な学び・子ども若者支援)
3. こども家庭庁(不登校・支援体制)
4. 自治体の公的調査(多様な学びのニーズ)
5. 夜間中学(学び直しの制度)
6. 多様な学び・民間との連携に関する公的提言
7. 法律・制度の基礎資料
8. 不登校・多様な学びに関する統計