「精神疾患の悩みの半分は、経済的な安心で和らぐ」——。
ある精神科医が語ったこの言葉は、私がPSWとして多くの方と接する中で、深く実感する真実でもあります。
精神疾患を抱えながら回復を目指す過程では、「いつまで働けるだろう」「収入が途絶えたらどうしよう」「治療費が高額になったら」といった経済的な不安が、病状と同じくらい、時にはそれ以上に大きな負担となります。
こうした背景を踏まえて、日本では、病気や障害によって生活が困難になった方を支えるための、さまざまな公的支援制度が存在します。
これらの制度を「知っていること」「必要なときに使えること」は、安心して治療や療養に向き合うための大切な支えになります。支援が必要なときは、遠慮なく支援を受けてください。
そして、もし余力が生まれたときに、ご自身なりの形で誰かや社会とつながれたら、それで十分だと思います。
本稿では、精神疾患や症状で悩んでいる成人期(18歳~64歳)の方々に、公的支援についてわかりやすく解説したいと思います。気になる制度があったらチェックして、ぜひ巻末に記した相談機関を訪ねてみてください。
働く課題と、公的支援の必要性
厚生労働省の統計を見ると、精神疾患のある方々が、経済面で厳しい状況に置かれている現実がうかがえます。
雇用状況の現実(令和5年度 厚生労働省調査より):
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精神障害のある方の雇用者数は年々大きく増加しており、約21万5,000人の方が働いています。しかし、体調に合わせた短時間勤務の方も多いため、平均賃金は約13万円となっており、現行の雇用構造の中では十分な所得を得ることに壁があるのが実情です。
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企業の雇用上の課題は「会社内に適当な仕事があるか」(約74%)が最多であり、精神障害者への配慮事項は「短時間勤務等、勤務時間の配慮」(54.3%)が最も多いという結果が出ています。
働く意欲があっても、体調や職場環境が整わないことで、生活の安定が難しくなる場合があることが示されています。だからこそ、公的支援が不可欠なのです。
Ⅰ. 生活費・所得を保障する制度
回復を目指す上で、最も重要なのが「収入の途絶を防ぐ」ことです。
1. 傷病手当金
| 制度概要 | 内容 |
| 目的 | 病気やケガで仕事ができなくなった際、本人と家族の生活を保障する。 |
| 対象者 |
健康保険(社会保険)に加入しており、以下のすべてを満たす方。 1. 業務外の事由による病気やケガの療養中である。 2. 労務不能(医師の判断により「働くことが難しい状態」と認められる)。 3. 連続する3日間を含め4日以上仕事を休んでいる。 4. 給与の支払いがないか、傷病手当金の額より少ない。 |
| 支給期間 | 支給した期間を通算して最長1年6ヶ月。 |
| 支給額 | 支給開始前の標準報酬日額の約3分の2。 |
| PSWの視点 | 「会社を休んでも生活は守られる」非常に心強い制度です。法改正により、復職と休職を繰り返した場合でも、実際に受給した期間だけを通算して1年6ヶ月分もらえるようになりました。申請には医師の意見書などが必要なため、休職に入る前に会社や健康保険組合に確認しましょう。 |
2. 障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)
| 制度概要 | 内容 |
| 目的 | 病気やケガによって生活や仕事に支障が出た場合、現役世代も含めて受け取れる年金。 |
| 対象者 |
初診日において国民年金や厚生年金に加入しており、以下の要件を満たす方。 1. 障害認定日(初診日から原則1年6か月後)に、定められた障害等級に該当していること。 2. 一定の保険料納付要件を満たしていること。 |
| 等級 | 基礎年金は1級・2級。(※厚生年金の場合は、より症状が軽い3級や障害手当金に該当する場合もあります) |
| PSWの視点 | 生活の土台を支える「基礎収入」となります。精神疾患の場合、症状の波があるため、診断書作成や病歴の申立てが特に複雑です。社労士や医療機関の精神保健福祉士などに相談することで、申請の負担を軽くできる場合があります。 |
3. 失業給付(雇用保険の基本手当)
| 制度概要 | 内容 |
| 目的 | 離職した方が、再就職までの生活を保障し、求職活動を支援する。 |
| 対象者 | 雇用保険の加入期間などを満たし、「働く能力と意欲」がある方。 |
| PSWの視点 | 精神疾患で離職した場合、「すぐには働けない」ことが多くあります。その場合は、ハローワークに医師の診断書を提出することで、本来の受給期間(1年)を最長4年まで先延ばしできる「受給期間の延長手続き」を忘れずに行いましょう。 |
Ⅱ. 医療費の負担を軽減する制度
継続的な治療が必要な精神疾患では、医療費の負担軽減が欠かせません。
4. 自立支援医療(精神通院医療)
| 制度概要 | 内容 |
| 目的 | 精神疾患の治療のために通院する際の医療費の自己負担を軽減する。 |
| 軽減内容 | 自己負担額が原則1割に軽減されます。また、世帯の所得に応じて、1ヶ月の自己負担額に上限が設定されます。 |
| PSWの視点 | 医療費を大幅に抑えることができるため、取得を強くお勧めしたい制度です。入院費や、精神科以外のケガ・風邪などの医療費には適用されない点に注意が必要です。 |
5. 高額療養費制度
| 制度概要 | 内容 |
| 目的 | 医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、ひと月で自己負担限度額を超えた場合、その超えた分を払い戻す。 |
| 対象 | すべての健康保険加入者。 |
| PSWの視点 | 入院などで医療費が一時的に高額になった際に特に役立ちます。事前に「限度額適用認定証」を申請しておくと、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられ、後から払い戻しを待つ負担が減ります。 |
Ⅲ. 生活の便宜を図る制度
6. 精神障害者保健福祉手帳
| 制度概要 | 内容 |
| 目的 | 精神障害があることの証明となり、各種の支援やサービスを受けるために利用される。 |
| 対象者 | 精神疾患(発達障害含む)により、日常生活や社会生活への制約がある方。初診日から6ヶ月以上経過していること。 |
| 主なメリット | 雇用(障害者雇用枠での就労)、税制優遇(所得税・住民税の控除)、公共料金や公共交通機関の割引など多岐にわたります。 |
| PSWの視点 | 取得を迷われる方もいますが、手帳があることで利用できる公的サービスの選択肢が格段に広がります。ご自身の選択肢(カード)を増やすためのお守りとして、取得を検討してみてください。 |
困ったときの相談先
お金の制度は複雑で、手続きも煩雑なものが多いです。「どこから手を付けていいか分からない」と感じたら、一人で抱え込まず、専門家に相談してください。必要に応じて、このページをメモ代わりに使っていただいても構いません。
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精神保健福祉士(PSW): 医療機関(精神科、心療内科)や地域の精神保健福祉センターなどに在籍しています。生活全般の相談や、制度活用のサポートを得意としています。
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地域包括支援センター / 市区町村の福祉窓口: 地域の社会資源や、自治体独自の助成制度に詳しいです。
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ハローワーク(専門援助部門): 障害者就労や、失業給付(延長)に関する手続きの相談ができます。
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年金事務所(日本年金機構): 障害年金の相談や請求の手続き窓口です。
精神疾患の回復には、経済的な安心感が不可欠です。制度は、あなたの生活を支えるために用意されています。ひとりで抱えきれないときは、いつでも相談してください。
(※本記事は、令和8年4月現在の最新の公的資料に基づき精神保健福祉士が監修していますが、制度の詳細は変更されることがあります。具体的な申請手続きについては、必ず各制度の担当機関にご確認ください。)
参考文献